電力やガソリンなどの燃料を使用せずに、
水を元の位置より高い場所に送ることのできるポンプ。
東南アジアの農村で出会ってその魅力に惹かれました。
この記事ではそんな水撃ポンプの魅力をお伝えします。
水撃ポンプの概要
水撃ポンプとは?
水撃ポンプ(英: Hydraulic Ram Pump)は、電力や燃料などの外部エネルギーを一切使用せず、水流の力だけで水を高い位置に持ち上げる装置です。水槌ポンプとも呼ばれます。一般的に、川や湧き水などの流れがある場所で使用され、農業用水や飲料水の供給に利用されています。18世紀にフランスのジョゼフ・ミシェル・モンゴルフィエによって発明され、その後、世界中でエネルギー効率が高いポンプとして広まりました。20世紀に入り、電動ポンプやガソリン駆動のポンプが登場すると、その利用は徐々に衰退していきましたが、再生可能エネルギーの利用が見直されている近年では、電力を必要としないこの水撃ポンプが再び注目されています。
水撃ポンプの構成
水撃ポンプは主に以下の要素で構成されています。可動部分は2つの弁のみで、とてもシンプルな構成です。
① 入力管:水源から水をポンプに供給する管
② 弁室:排水弁の動作によるウォーターハンマー現象を発生させ、圧力を生じる場所
③ 排水弁:水流を一時的に閉じて圧力を発生させる装置
④ 揚水弁:弁室で生じた圧力により水を圧力タンクへ押し上げる際に開き、逆流を防止する役割
⑤ 圧力タンク:圧力エネルギーを蓄え、空気の弾性力で水を高所に送り出す装置
⑥ 圧力計:圧力タンク内の圧力を測定し、ポンプが適切に動作しているかを確認する装置
⑦ 揚水管:圧力タンクで生じた高圧を利用して、水を目的地に運ぶ通路。
原理
水撃ポンプの原理は、「水撃作用(ウォーターハンマー)」と呼ばれる現象に基づいています。水の流れが急に遮断されると、配管内に高い圧力が発生し、その圧力を利用して水を押し上げる仕組みです。この圧力変化を効率よく利用することで、低い位置から高い位置へ水を自然に揚げることが可能です。Wikipediaでは水撃作用を以下のように説明しています。
水撃作用(すいげきさよう)またはウォーターハンマー現象(英: water hammer)とは、水圧管内の水流を急に締め切ったときに、水の慣性で管内に衝撃と高水圧が発生する現象である。弁の閉鎖や配管の充水時、ポンプの急停止といった急激な変化によって生じる。
もう少し下の図の例で詳しく見てみましょう。Reservoir(貯水槽)からパイプを通って水がGate(ゲート)に向かって流れているとします。ゲートが突然閉まった時に発生した高水圧は、ゲートと貯水槽の間を行ったり来たりしながら次第に弱まっていきます。この図は少し大袈裟に表現されていますが、ゲートに向かって流れていた水は、高水圧に押し戻されれて貯水槽側の向きの流れになり、その後、減衰する高水圧とともに貯水槽からの水圧に再度押される形でゲート側の流れになります。水撃ポンプはゲート(水撃ポンプでは弁)の開閉によって、このような水撃作用が継続的に発生することで、水を貯水槽の水面より高い位置に水を揚げることができます。
水撃ポンブの動き
構成や水撃作用の原理が分かっても、実際にどのように水撃ポンプが動作するかはやはり分かりずらいですね…ここでは、下の図を使ってその動作を4つのフェーズ(Phase)に分けて説明します。水撃ポンプはこの動作が繰り返されることによって、継続的に水を揚げ続けます。
- Phase1:入力管を通って貯水槽などの水源から水撃ポンプの弁室に水が流れ込みます。その水は排水弁を押し上げながら排水口から流れ出ます。そして、排水弁が閉じた瞬間、水撃作用が働いて弁室内に高水圧が発生します。
- Phase2:弁室内に発生した高水圧によって揚水弁が押し上げられて、弁室内の水が圧力タンク内に流れ込みます。
- Phase3:流れ込んだ水によって空気が圧縮され、圧力タンク内の圧力エネルギーが高まります。この圧力エネルギーによって水が押し返される際に揚水弁が閉じ、行き場を失った水が揚水管へと流れ込みます。
- Phase4:高水圧によって水の流れが押し戻される作用を受け、弁室内の圧力が下がります。これによって排水弁が再び開きます。そしてPhase1に戻ります。
下の2つの動画は、農村の人たちと作成した水撃ポンプが実際に動作する様子と水が揚がる様子です。図で示した水撃ポンプのイメージとはかなり違いますが、水撃ポンプの良さはその構造のシンプルさで、利用する場所で入手できる材料の組み合ができるところにあると思います。水撃作用に伴って発生するとても高い圧力を扱うので、材料(特に圧力タンク)や構造はしっかりしないといけませんが、アイデア次第で様々な水撃ポンプを自作することができます。ちなみに、この動画の赤い圧力タンクはガスボンベです 笑。
どのくらい水が揚がるの?
どの程度の高さまでに、どれほどの量の水を揚げることができるのか。いくら水撃ポンプが燃料などを利用しない便利な装置だとしても、それが分からないと不安ですよね。下の図でイメージを説明します。
英語でゴメンナサイ
上の式で、Q は最終的に揚げることのできる毎分の水の量(リットル / 分)、q は入力管を通って水撃ポンプの弁室に流れ込む毎分の水の量(リットル / 分)です。qがどの程度かは、ポンプを装着する前の状態で入力管から流れ出す水がバケツを満たす時間を測ることで把握することができます。15リットルの容量のバケツが10秒で一杯になったら、qは90(リットル / 分)ですね。
h は、水撃ポンプ(厳密には排水弁)から貯水槽などの水源の水面までの高さ(メートル)、H は水撃ポンプから揚水管の出口までの高さ(メートル)です。つまり、h が大きくなればなるほど、より高い位置までに水を揚げることができます。そして、Hが大きくなればなるほど揚げられる水の量は少なくなります。水を高く揚げようとするほど、それ相応の大きな水撃作用を必要とするので、ポンプ自体の強度の重要度も増すことになります。
eは水揚げ効率で0.4~0.6と書かれている書籍がありますが、しっかり作らないと、体感的にはもうちょっと下回るイメージです。
さらに、
効率よく水を揚げるために
水撃ポンプの作成
色々なサイトで紹介されているのでぜひ参考にしてみて下さい。